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​Research

​研究紹介

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EPAについて

 エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid; EPA) (下図)は、オメガ3多価不飽和脂肪酸(ω3-polyunsaturated fatty acid; ω3-PUFA)に属し、動物の発達分化・成長に必須の脂肪酸であり、炎症応答の抑制、免疫機能の制御、脳血管障害・心筋梗塞などの心血管系疾患に対して発症抑制作用を示す機能性脂質です。

 一方、ヒトや魚類を含む脊椎動物は、ω3-PUFAの生合成に関わる脂肪酸不飽和酵素群を持たず、自らEPAを作ることができません。このため、食事等として外界から摂取する必要があり、PUFAを含むイワシやサバなどの積極的な摂取が推奨され、さらに数多くのEPAを含むサプリメントや食品が市販されています。

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 一方、EPAの示す様々な生理活性は、EPAそのものでは無く、EPAが体内で代謝されることにより生ずる脂質メディエータと総称される物質群により担われています。例えば、EPAの代謝物であるレゾルビンやプロテクチンは強力な抗炎症作用を示す脂質メディエータとして注目を集めています。一方、EPAが腸管内の細菌(腸内細菌)により代謝されて生ずる脂質メディエータ(EpETE: epoxyeicosatetraenoic acid)は、食物アレルギーや腸炎を抑制する強い生理活性を示すことも知られています。
 EPAの調製法については、魚油からの精製、海洋性微細藻類であるラビリンチュラ類や極地や深海の様な低温環境から単離されたEPA高生産菌を用いた方法の開発が試みられています。一方、EPAは、シス型の二重結合を5個有する炭素数20の高度不飽和脂肪酸であり、酸素・光・温度等により容易に酸化されやすい性質を有しており、その分解により生ずる過酸化脂質は生体に有害な作用を及ぼすことから、EPAの分離精製、量的生産には多大なコストと時間がかかり、健康食品や医薬品として利用する上での問題点が残されています。

養殖飼料について

 我が国は暖流と寒流が合流する特異な海域に囲まれ、多様かつ豊富な水産資源に恵まれていることから、古くから様々な漁業が発達してきました。しかしながら、乱獲や各国の200海里水域の設定、地球温暖化等々の原因により我が国の漁業生産量はこの30年間で約3分の1に減少していることも事実です。今後、養殖漁業を含めた漁業生産の向上に資する新たな技術開発が望まれています。
 脂質は、魚類の主なエネルギー源であると共に、魚類の発生・生育に重要な役割を担います。特に高度不飽和脂肪酸であるEPAやドコサヘキサエン酸(DHA; C22:6n-3)は、魚類の発生や生育、感染症に対する免疫応答において必要不可欠な必須脂肪酸としての役割を果たすことが知られています。サケ・マス・ブリ等の養殖飼料としては、魚粉が約40%の割合で配合されており、4万トンの魚類生産に対して3万トンの魚粉が使用されています。これまで、魚粉の主原料としてマイワシが用いられ、その魚油から必須脂肪酸が供給されてきましたが、マイワシの漁獲量の著しい減少のため徐々に大豆やコーンを主原料とする飼料の開発が行われています。しかし、植物性飼料にはEPA・DHA等の必須脂肪酸が含まれず、飼料への添加に必要なEPA・DHAの量的確保と価格高騰の解消が喫緊の課題として残されています。
 また、稚魚の養殖飼料としても魚粉を添加することにより健苗性を維持しています。EPA・DHA強化食で成長したサケ科魚類の種苗が河川に放流された場合には、河川ではこれら高度不飽和脂肪酸の供給源が乏しい為、EPAの欠乏による未成魚の死亡率の増加が漁獲量減少を招くことが指摘されており、持続的にEPAを供給する新技術により稚魚の健苗性を向上し、安定した量産技術の確立も待たれています。

GI35について

 琵琶湖は、バイカル湖、カスピ海に次いで世界で3番目の古さを有する古代湖であり、他の湖には見られない特異な構造地質学的および生態学的地位を有しています。琵琶湖には14種類の固有種と共に60種以上の魚種が生息していますが、その生化学的・分子生物学的な研究は未だなされていません(右図)。私達は、まず、水深70~100mの低温環境下の湖底に生息する琵琶湖固有種のハゼ科魚類イサザ (Gymnogobius isaza)(右図)について詳細な解析を進め、淡水魚では例外的にエイコサペンタエン酸(EPA)を多量に蓄積することを見出し、その代謝酵素を同定・解析しました(Journal of Biochemistry.164:127, 2018に公表)(図4)。EPA含有脂質の増加は、イサザ の低温下での生存に重要な役割を果たすと考えられましたが、一方、イサザ 体内のEPA産生酵素の代謝活性が低いことが明らかとなりました。
 そこで、イサザ のEPA摂取経路の一環として、腸内細菌叢の解析を行ったところ、EPAを高産生するShewanella属の海洋細菌がイサザ 腸内に存在することを発見しました。一方、琵琶湖の固有種で中層を回遊するホンモロコ(Gnathopogon caerulescens)の個体から同菌が検出されないことからイサザ 固有の腸内細菌であると考えられます。さらに、イサザ 腸内よりEPA産生細菌の同定を試み、Shewanella属細菌の単離培養の単離培養に成功しました。単離した菌株群のEPA産生能を元に有用菌株の同定を行い、EPA高産生菌であるShewanella属菌GI35株について詳細な解析を進めた結果、GI35株は、Shewanella属の新種菌であり、非常に高いEPA高産生能を有することが示されました。

GI35を介する個体へのEPA供給について

 一般に、従来の乳酸菌などの腸内環境を整え疾患の予防につながると考えられるプロバイオティクスについての研究では、摂食した生菌が腸内で生残し、定着することはほとんどの場合不可能であると考えられています。そこで、私たちは、GI35を魚類に摂食させ腸管内で生残・増殖さらに定着することにより、体内からの持続的なEPA供給が可能であるか否かについて検討を進めました。具体的には、ニジマスの稚魚に飼料と共にGI35を一定期間摂取させた後、GI35を含まない餌で飼育した後のEPA含量を測定した結果、GI35摂取群において有意にEPA量が増加していることがわかりました。この結果は、ニジマス稚魚に投与したGI35が腸管内に生残し、EPAを持続的に供給していることを示しています(特許出願2020-123809)。

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